本記事は英語でもご覧頂けます:Quick Commerce in Western Europe: Trends, Operational Models and Prospects
西欧では今、クイックコマースの人気が高まっている。ユーロモニターインターナショナルの調査によると、現在30社が競合しており、そのほとんどは過去10ヶ月以内に設立されたもので、主に食料品の配送に重きを置いている。同地域の消費者は、超高速な配送スピードに慣れてきており、ブランドや小売業者にとっては、トレンド、経営モデル、今後の見通しを理解することが重要となる。
なぜ今、西欧でクイックコマースが成長しているのか
クイックコマースとは、少数の商品を迅速(1時間以内)かつ手頃な価格で配送することで、第3世代のコマースと定義されている。コンセプト自体は決して新しいものではなく、韓国やインドなどの市場ではすでに十分に発展していたが、近年、投資先として世界的に最も魅力的な地域のひとつが西欧となっており、これにはいくつかの理由がある。
ひとつには、西欧の店舗型食料雑貨小売における一人当たりの消費水準が世界で3番目に高く、2020年には4%の伸長を見せたことである。この背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによってロックダウンや在宅勤務をしなければならなくなったことで、消費者が自宅での食事を準備することが増えたことがある。
食料雑貨小売業:世界の他地域と西欧を比較してみると(2015-2020年)
Source: Euromonitor International Retailing Passport Research, 2021
多くの消費者が、可能な限り不要な外出を避けるようになったことで、衝動的な購入を促すタッチポイント(陳列棚の端の目立つ場所にあるエンドキャップやレジ横、特別なディスプレイなど)の利点が失われた。一方で、オンラインでの食料雑貨品の売上の成長は、記録的な高さにまで達している。また、デリバリーやクリックアンドコレクトのサービスモデルは、感染のリスクを最小限に抑える方法として、多くの人に受け入れられている。しかし、配送スピードには課題が残っており、ユーロモニターが2021年3月に実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」調査によると、西欧の消費者の37%が、「配送にかかる時間が想定以上に長い」ことが一番大きな課題であると回答している。また、スペイン、フランス、ギリシャ、ドイツなどの国々では、夜間の外出禁止令が発令され、時にはそれが数週間にもわたったことから、突然買いたくなったモノや、夕食用の買い物に迅速に対応する配送サービスへの需要が高まった。さらに、より地域に密着した流通網を構築し、エンドコンシューマー(末端消費者)と商品の物理的な距離を縮めることで、配送時間を短縮することが急務となっている。
西欧のオンライン・デジタル環境にある消費者の買い物行動の変化(2015-2021年)
Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Lifestyles Survey 2021
さらに、西欧は、可処分所得が高く(一人当たりの可処分所得が高い上位20か国のうち、8か国が西欧圏内の国である)、都市化が進んでおり(人口の78%が都市部に居住)、単身世帯が多い(全世帯数の33%を占める)ことから、ここ2、3年、食料雑貨の買い物負担を減らしたいという消費者のニーズが高まっている。
このような消費者や市場の動向に加え、2020年における西欧の食料雑貨品市場は1兆5,000億米ドル(付加価値税を除く)に上ったのに対し、インターネット利用者の増加率は前年比わずかことから、絶好の投資機会が生まれているといえる。これにより、過去1年半以上にわたり、欧州の起業家やベンチャーキャピタルの間でクイックコマースの人気が高まっている。
クイックコマースへの注目度が高まる中、どのような企業が競合しているのか
現在、既存の技術やサプライチェーンを活用した超高速かつハイパーローカルな配送サービスを提供する企業や、オムニチャネル体験の拡大・充実を目指す老舗のレガシー小売企業など、様々な企業がクイックコマース市場を開拓している。
クイックコマースにおける3つのビジネスモデル
Source: Euromonitor International
クイックコマースの長期的な展望とは
クイックコマースに関しては、今後の潜在性への疑念や、ロックダウン解除後のサービスの有用性、経済的な仕組みなどについて、アナリストや投資家が常に議論している。多くのコメンテーターや一部の企業は、Uberのような、市場の大部分(または全体)を獲得した企業しか収益性を高めることができないと考えているようだ。クイックコマースの市場でシェアを獲得するためには、投資家から得た資金を全投入しなければならないという重圧もあるが、収益性を得られるようになるには、長期的に取り組む必要がある。しかも、利益率が低い食料雑貨小売業が現在中心となっていることを考えると、収益性を達成できない可能性もある。
しかし、目新しさはあり、注目度は高い。人々は好奇心旺盛で、欧州の大都市のように、スーパーマーケットやコンビニエンスストアが歩いてすぐの場所にある環境においても、クイックコマースの利便性を試したいと考える。ただし、主要企業によると、一度サービスを利用した消費者がリピートして購入することは少なく、販売量においても期待を下回る結果となっているようだ。その理由のひとつに、ブランドロイヤリティが全般的に低いことが挙げられる。ベンチャーキャピタルの潤沢な資金が注入され、より大幅な割引を提供できる企業が常に存在し、価格以外で商品やサービスを差別化する要素がない場合、消費者はあっという間に利用するアプリを切り替える。オンラインベースのクイックコマースモデルには、現時点で格段に優位性が高いものがあるわけではないため、企業は配送をサポートするインフラの強化に注力している。また、老舗小売企業の自社アプリは、導入を開始した段階から多くのファンを獲得しており、店舗環境を活用した配送システムが確立されていることは確かだといえる。しかし、これら老舗企業の目的は大抵、顧客にデジタル注文という選択肢を増やすことであり、必ずしもクイックコマースのサービスだけで利益を得ることではない。
クイックコマースで成功させるために、企業が今考えておくべきことは
地域に密着し、地域ごとに全く異なる商品を提供できるようになれば、企業にとってのメリットはさらに大きくなるだろう。しかし、新規参入者が殺到し、ブランドに対するロイヤリティがない今、「物事を進めながら学び」つつ、社内で保有する、ある特定の地域で好まれているブランドや商品に関するデータを利用するだけでは、リピーターとなる消費者の確保に十分な効果が得られない可能性がある。特定の地域や市場で消費者に最も支持されている商品やブランドを見極めるために、有効な外部パートナーのデータやインサイトを利用することが、今後の成功と失敗の分かれ目になるとも考えられる。
さらに、消費者をより深く理解し、隣接する産業やカテゴリーからインスピレーションを得て、成長の機会を見出すことができれば、成功の可能性が広がるだろう。例えば、クイックコマースは、コンビニエンスストア業界では既にシェアを獲得しているが、外食業界では売上が限られている。ダークキッチンを利用して外食業界と本格的に競合するようになると、新たな顧客層の開拓につながる可能性もあり、goPuffのような企業は、既にこの道で先駆けてサービスを開始している。様々なカテゴリーの商品が配送できるようになれば、クイックコマースのビジネスモデルはより複雑になると思われる。しかし、ここにおいても、どこで勝負すべきかをアドバイスすることができる外部パートナーの存在が重要となる。
ブランドや小売業者が、このビジネスモデルで勝負し勝ちゆくために知っておくべきこととは
- クイックコマースは、食料雑貨店に限ったものではない:適切なインフラと物流が整っていれば、ほとんどの商品を短時間で消費者に届けることができる。西欧では、クイックコマースはまだ食料雑貨品に限られているものの、例えばGlovoのような企業は、電子機器や家具など、特定の分野で商品配送の範囲を拡大している。
- 市場シェアの拡大と、収益性を高めるには、パートナーシップが最善の方法か:超高速配送サービスを提供する配送業者の多くは、小売業者との提携を敬遠し、自社のネット販売専用の物流センターであるダークストアの数を増やすことに主眼を置いているが、「自社単独で行い」、できるだけ高いシェアを獲得しようとする彼らの考え方は、近い将来変わる可能性が高い。ハイパーローカルな配送サービスにおいては、2021年5月にEstée Lauder CompaniesがUberと提携して1時間以内の配達を実現するなど、パートナーシップが成功したパターンが実際に存在する。
- クイックコマースは、すべての老舗小売業者が導入するべきものではないかもしれないが、それら企業にとっても、どこで何が起きているのかを理解することは重要である:実店舗型小売企業や大手Eコマース企業は、物流に多額の投資をして配送時間の短縮を図ってきたが、カテゴリーによってはまだ十分な短縮が叶えられていない。また、消費者が商品を欲しいと思ったときと、それが届けられるまでの時間に大きな差があることから、それがEコマースの普及を妨げている要因のひとつともいえる。あまり語られることのない結論ではあるが、クイックコマースは実店舗の延長線上にあると考えるべきであろう。ダークストアや既存の店舗を活用して最大限の利益を得ることが、今後の鍵となる。今後は、パートナーシップやM&Aの増加が予想される。CarrefourとCajoo、ReweとFlink、AmazonとDeliverooなど、すでにこの分野で賢明な動きをしているところもあるが、既存の企業にとってはクイックコマースの導入は少々リスクが大きすぎることもあり、必ずしも既存のビジネスモデルにプラスになるとは限らない。2020年と2021年のクイックコマースブームは、変わりゆく店舗の役割と、Eコマースへの恒久的なシフトを予見したものに過ぎず、老舗小売業者はこの分野への投資機会をさらに模索することになるだろう。
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(翻訳:横山雅子)