2024年が始まり、はや3週間が過ぎた。今年の日本の消費者は、昨年に続いて慎重かつも楽観的に行動していくだろう。生活費の高騰、パンデミックによって増長した習慣、そして日常生活に浸透しつつある高度なテクノロジーが、2024年の日本の消費者習慣にも影響をもたらしていくことが予想される。
ユーロモニターインターナショナルが毎年発行している「世界の消費者トレンド」レポートは、企業や組織が来る破壊的イノベーションに備え、消費者の購買動機を予測し、変化し続ける消費者ニーズに対応するために有用な知見を提供している。本文では、同レポートの2024年版で解説された6つのトレンドのうち、日本の消費者市場と深く関連する4つのトレンドが、国内でどのように具体化しているかを解説していく。
クリエイティブな倹約家(Value Hackers)
日本は新型コロナウイルスに対し、極めて慎重な対策を講じた後、2023年にようやく商業活動や社会活動が平常に戻った。しかし、世界的なインフレの高騰およびそれがもたらす波及効果から免れることはできず、日本経済は、過去数十年で最大の物価上昇率を経験した。日本の消費者の多くはデフレに慣れており、これほどのインフレを経験したことがなかった。経済の再開と突然起こったインフレを受け、消費者は自らの優先事項と購買習慣を再考するようになった。
消費者の多くが買い控えを続ける一方で、購買力が低下しても、限りある予算の中で最大の価値を得ようとやりくりする消費者がいることが、中古品への需要の高まりにつながっている。日本の消費者はかねてより品質にうるさく、新品を好むとされてきたが、インフレの影響をより大きく受けている若者世代をはじめとして、消費者の中古品に対する抵抗感は薄れつつある。こうした中、2023年10月、アパレル国内大手のユニクロは、廃棄物の削減を目的とした「UNIQLO古着プロジェクト」の一環として、中古品のポップアップ・ショップを期間限定でオープンした。日本的な概念である「もったいない」を体現したこの試みは、節約志向の人々にも歓迎された。また、買い物によるポイント収集や、貯めたポイントでお得に買い物をおこなう「ポイ活(ポイント活動)」に熱心な消費者も見られ、獲得したポイント活用による節約に勤しんでいる。2024年は新品、中古品にかかわらず、製品の価値、そしてユーザーにもたらすであろう利益を明確に伝えることが今まで以上に重要になるだろう。
一瞬の気晴らし(Delightful Distractions)
昨年に続き、先行きが不透明な状況が続くと予想される2024年、消費者は、たとえ短い時間であっても、ときめきを生み、緊張を解き、心配事を忘れさせてくれるようなひとときを求めている。社会生活や経済活動が正常化するということは、日常生活の喧騒が増えることでもある。
ちょっとした、しかし遊びの効いた気晴らしで息抜きを提供することは、消費者との関係を構築するうえで効果的だ。例えば2023年、一見、単調ともいえる「スイカゲーム」が日本国内で、子供から大人まで幅広い層を惹きつけ成功を収めた。このように、企業やブランドは、如何にして消費者に対し、ちょっとした気晴らしや、楽しい気分をもたらすことができるかを考えるべきだ。
今日の人々は、体験により大きな価値を見出すようになっている。日本の消費者が、モノよりも思い出を重視し、コロナ禍で失われた体験の機会を取り戻そうとする中、趣向を凝らしたイベントやエンターテインメントによる現実逃避が、人々を惹きつけ楽しませている。2024年2月に東京豊洲市場場外にオープンする「豊洲千客万来」は、新しい体験型エンターテインメント、食、ショッピングの複合施設だ。来場客には、江戸の街並みが再現された食楽棟での食事や、露天風呂や温泉でのくつろぎを提供し、人々に記憶に残る体験を与えることを目指している。このように、消費者が求めているいっときの現実逃避や気晴らしをもたらすことができる企業やブランドが、彼らとの結びつきを強め、そこから生まれる需要を満たしていくだろう。
お手軽ウェルネス(Wellness Pragmatists)
多忙な現代の日本の消費者が求めているのは、心身の健康を保つためのお手軽かつ効果的なアプローチだ。人々は自分の健康を自ら管理し、適度な健康目標を立て、日課に組み込んでいる。好まれるのは、使う時間や労力が少ないセルフケアだ。
こうした消費者ニーズの高まりを受け、ホテル業界ではウェルネス宿泊プランを用意し、利用者がリセットできるような時間を提供するようになった。例えば、大阪のホテルZentis Osakaは2023年、ビューティーブランドのSHIGETA PARISとコラボし、セルフケアをテーマとしたウェルネス宿泊プランを販売した。同プランの中には、呼吸法やセルフマッサージなど、滞在後も続けられる内外のボディケア方法の指導が含まれていた。
人々が忙しい日々の中でもエクササイズに充てる時間を探す中、無人小型トレーニング店「chocoZAP(チョコザップ)」チェーンは2022年のブランド展開以来、急速に店舗数を増やし、今や日本最大の会員数を誇る(2024年1月現在)。チョコザップはライトユーザー向けのジムとして女性や高齢者をメインターゲットしている。また、月会費を低く設定することで入会へのハードルを下げているほか、脱毛、ネイルトリートメント、歯のホワイトニングなど、様々なセルフケアサービスを提供することで、利用者の容姿改善をサポートしている。消費者はこのように、新たに生まれくるセルフケア方法を受け入れながら、より簡単かつ効果的な方法を常に求めている。
AIに聞け (Ask AI)
2024年の日本の消費者は、利便性と快適性を提供するテクノロジーをますます歓迎し、そして信頼するようになる。人工知能は急速に台頭し、人々にとっても身近なものになりつつある。こうしたテクノロジーがもたらす効率性やメリットは、労働力不足に直面する日本の高齢化社会にとっては歓迎すべきことである(その利用さらには過剰依存を不安視する声もあるが)。
生成AIは、ユーザーにとっての共同制作者となり、人々の意思決定やブランドとの関わり方に影響を及ぼし始めており、今後、日常生活により深く浸透していくことが予想される。日本企業も、顧客体験を自動化および強化すべく、自社システム内への生成AIの導入が進み、特に旅行・サービス産業ではその動きが顕著にみられるだろう。
「AIに聞け」トレンドの国内事例のひとつに、旅行会社ビッグホリデーのAI社員「本郷一花」による旅行相談がある。顧客が入力した旅行の好みに基づき、彼女(生成AI)がオーダーメイドの旅行日程を瞬時に作成し、顧客の旅行計画を支援するというものだ。日本の消費者間では、実店舗の旅行代理店を利用することが依然人気ではあるが、今後は、より使いやすく、時間の節約にもつながる選択肢を試す人々が増えるだろう。特に、AI技術の更なる進歩によって、高品質かつパーソナライズされた結果を得られるようになれば尚更だ。
トレンドの特定と適応
今日の世界の消費者トレンドは、過去から継続、進化してきたものと、この1~2年で急速に台頭してきたものとが混在している。例えば、「クリエイティブな倹約家」トレンドは、長期的に続いている経済的な不確実性を背景に、消費者が倹約と費用対効果を追及してきた延長線上にある。対照的に、「AIに聞け」は、わずか1~2年の間に台頭した生成AIと、その入手可能性がもたらしたトレンドである。
2024年の世界の消費者トレンドは、日本国内の消費者の嗜好や購買決定にも反映されることになる。こうしたトレンドの変化を常に把握し、自社の事業、製品、サービスを適応させることができる企業が、消費者との絆を強め、成功を収めるだろう。
各トレンドの更に詳細な解説、ケーススタディ、戦略的提言については、ユーロモニターの最新レポート「2024年世界の消費者トレンド」をご覧いただきたい。